世間の理解
夜、自宅の電話が鳴った。
「もしもし、○○に住んでますTといいます。新聞を読ませてもらって、思いきって電話しました」
電話番号は、新聞社に問い合わせたのだそうだ。
「じつは、私の母のことなんですが……」と、切り出された話というのは、こうだ。
お母さんが、10年前に呆けてしまったという。
電話の主は長男さんで、妻と2人でお母さんを介護してきたという。
いまから10数年前のことです。
当時は「呆け」はいまほど一般的ではなく、2人とも、何とかお母さんの症状をまわりに知られまいとして、家から出さないようにしたらしい。
しかし、そうすると、呆けはますます進行し、夜の間にいなくなって、明け方まで警察といっしょに探しまわるなんてこともあったという。
そのうち、世間で「呆け」のことが語られはじめた。
うちだけじゃなかったんだ、と安心するとともに、たとえ呆けていても、最後までより人間的に過ごしてもらおう、と思うようになった。